DATE 2008. 9.18 NO .
『ハロルド。ちょっと話があるんだが……今いいかな?』
「――ハロルド」
「ん、何か用?」
『どしたの、兄貴?』
顔をあげると、アトワイトの姿があった。
「あなたには頼るまいと…思って…いたのだけど…」
けれどいつもと様子が違う。
まぁ、「収容作業」中に明るく振る舞われても困るんだけど。
「…だから、何?」
それでもそんなアトワイトに何故か苛立って、それを隠さずに短く返す。
アトワイトの視線が、思った通りの方向へ向いた。
『……ソーディアンの事だ』
「カーレル…頼むから……」
ソーディアンチームなどほんの一握りの者しか立ち入りを許されていない、神の眼の間。
そこに一人きりでいるディムロスまで、声が揺れている。
「頼むから、この手を離してくれ……もうお前が戦う必要は…ないんだ……!」
あぁ。
アトワイトは「これ」が見てられなかったんだ。
「――何してんの、ディムロス」
声を掛けて初めて、ディムロスは背後にわたしが立っていると気づいたらしい。
「ハロ…ルド…」
ディムロスの両手は、兄貴の右手を包み込んでいて。
その兄貴の右手は、ソーディアンを握り締めたまま。
黒いコートの下、白い軍服が赤黒く染まっているのが視界に映る。
あの時の光景が、鮮やかに蘇る。
「次は神の眼の調査でもしようかと思って来たら……まだこんなとこにいたんだ」
ここには兄貴しかいないでしょーが。
ったく、いつまでかかってんのよ。
「しょーがないわね……」
袖口からナイフを出した――その、瞬間だった。
「…っ、何をするつもりだハロルド!!」
予想をはるかに上回る音量でディムロスに怒鳴りつけられた。
兄貴の右手を包む両手に、力が込められたのが見て取れる。
「何って…わかったから怒鳴ったんでしょ?」
「そんな事は…させられない……特にお前には、絶対に…!!」
「そう言う中将閣下にはもっと出来そうにないけど?」
泣き喚いたわたしを冷静に諭した中将閣下は、いったいどこへ行ったのよ。
「…………」
「…よく今まで死ななかったものね、ディムロス。それは剣なのよ? 紙とかならともかく、本気になればどうとでもなるでしょうが。兄貴が生きてたって、ディムロスと力で勝負して敵うわけないんだから」
ディムロスの手が、離れた。
「カーレルの決意を……改めて思い知らされた」
決意、か。
「最後の最後でカーレルが立ち上がって捨て身の攻撃を仕掛けた時、私達5人はもう、見ている事しか出来ない有様だった」
こんな戦争に翻弄されてなるもんか――初めて兄貴がそう口にした時、わたし達はまだ幼かった。それから事あるごとに言い続けて……いつの間にかこの戦争を動かす「ベルセリオスの双子の天才」だとか呼ばれるようになって。
『私のソーディアンに投射するのを――お前の人格に出来ないか?』
――かと思えば、あんな事を言い出したりもしてた。
「…どうにか、カーレルを傷つける事なく、この手をひらく事は出来ないか」
『はぁ!? いきなり何言ってんの、兄貴?』
だから引き抜きなさいよ。
あんたが兄貴に勝てないわけないじゃない。
『使い手は私で、人格はお前――最強のソーディアンになると思わないか?』
……まったく。
『まったく……でも、それも一理あるわね。
誰もベルセリオスには敵わないって事を、思い知らせてやるわ』
『ハロルド』
「ディムロス」
「何だ?」
『――私達は、いつも一緒だ』
「ありがとう」
「…私は、お前に感謝される事をした覚えはないぞ」
「ディムロスは、兄貴の友達だったんだなーと思って」
わたしの事ばっか構ってた、ばか兄貴。
「ハロルド…」
あの提案に乗ってなかったら、今頃話だけでも出来たかもしれないのに。
壊れたのを直したところで――自分じゃあ、ね。
「はいはい、退いて退いて」
ディムロスを押しのける。
「何だ、硬直の度合いも大した事ないじゃない」
ディムロス困らしてどうすんの、兄貴。
「もうゆっくり休めばいいのよ」
大丈夫、ディムロスには聞こえてない――
「――離れても、傍にいるから……兄さん」
わたしは、ソーディアン・ベルセリオスを手に取った。
「カー…レル……」
ディムロスが、わたしの手の中の壊れたソーディアンを見て、掠れた声で呟く。
残念、これには兄貴の人格は投射されてないのよ。
でも――誰にも言わない。
「はい。もうしばらくだけでも、一緒に置いといてやって」
ディムロスが何か言う前に、わたしは立ち上がった。
「泣きたいなら誰もいないうちに泣いときなさいよね」
「――お前が泣いていないというのに、そんな事が出来るか。だいたい私がいつ泣きたいなどと……」
「ほら、その調子その調子。中将閣下はそれくらい口煩くないとね」
「……そうだな。カーレルの前で、こんな顔はしていられないな」
「――じゃあ、わたしは行くから。神の眼はまた今度にするわ。…兄貴を、よろしく」
「…了解した」
神の眼の間を出る前に、振り返る。
ソーディアンの刀身に額を寄せて俯いていたディムロスが顔をあげ、立ち上がったところだった。
≪あとがき≫
ソーディアン・ベルセリオスに投射されている人格はハロルドだけれど、
他のマスター達は気づいていない。カーレルが刺し違えた時にコアが破損、
ミクトランの人格が入り込んでハロルドは乗っ取られ、その知識が悪用され
た。だが後世では、マッドサイエンティストの弟・ハロルドがカーレルに自
ら提案して承諾させ第二次天地戦争の元凶となった、とされている――とい
う事でOKですか。
TODDCのプレイ動画を眺めてて、ソーディアン・ベルセリオスが最期のヒ
ューゴみたく一言でも喋るのを期待してしまいました。あと、イクティノス
はD2の方がいいと思いました。
ハロルドの本名(?)が気になるなー…
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